下記に参加し,講演を聴講しました。
国立国語研究所迫田科研
学習者コーパス研究会(1月例会)
日時:2018年1月5日(金)
10:30~12:30
場所:広島大学東京オフィス(409号)
発表者:トムソン・木下・千尋先生(ニューサウスウェールズ大学)
I-JAS データから見える学習者の学び
ー社会文化アプローチのレンズを通して―
トムソン先生からは,社会文化アプローチの発想から見たI-JASについて発表がありました。
I-JAS側は「自然な会話」を収録したと述べているわけですが,これについて,社会文化アプローチの立場から見るとそのようには認めがたいという趣旨のコメントがあり,この点をめぐって議論が盛り上がりました。
たしかに,I-JASはOPI風のデータの取り方をしているので,どうしても調査者=聞く人,被調査者=答える人となり,被調査者のほうから質問したり話題をふったりすることはほとんどありません。しかし,それはインタビューという形式による必然的な結果であって,だから「不自然だ」というのはやや飛躍があるかもしれません。インタビューとしてはむしろそれが「自然」だとも言えます。
私自身も,自分が構築している学習者コーパスとの関係もあり,この議論には強く興味を引かれました。
ここで重要なのは,そもそも,「自然な会話」とはなにか,ということです。
現段階での私の整理は以下のようなことです。
1)自然な会話という概念は複合的である。
2)会話の自然性には,
a) 文法的自然性
b) 語彙的自然性
c) 状況的自然性
d) 動機的自然性 などがあり,各々は本来独立している
3)一方,似て非なる概念として,「多様性」がある
4)I-JASをはじめ,学習者コーパスのデータは,「多様性」という点では高度に特定的・限定的・特殊的である
5)しかし,その前提のもとでは,収集されたやり取りは言語的に(つまり,文法的・語彙的・状況的に)自然である
たとえば,初心者にわからせようとして,わ~た~し~は~のように,過剰なポーズを置いたり,わざと子ども言葉を使って問いかけたりしていれば,それは言語的に不自然な会話となりますが,学習者コーパスでは通例そうしたことは行いません。
つまり,学習者コーパスの開発者は,自分たちが作っているデータは,状況的に特殊であるにせよ,言語的には自然である,というふうに,とらえておくのがよいかな,という印象です。
いずれにせよ,コーパス研究者以外の方から学習者コーパスを見て評価していただくのは大変貴重な機会であり,そこから新しい研究の発想も生まれてきます。いつもながら有意義な研究会となりました。