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2017/06/30

2017.6.30 大学院外国語教育コンテンツ論コース 第2回集団指導

ゼミ生のうち,D1張晶鑫さん,M2中西淳君が発表しました。

張晶鑫(D1)「オノマトペサ変動詞の活用の多様性―一般動詞との比較から―」
概要:オノマトペサ変動詞は活用の点において制約が多く、その動詞性は必ずしも高くな
いように思われる。本研究は日本語教育の観点から、一般動詞と比較しながらオノマトペ
サ変動詞の全体の持つ活用傾向と、個々の重要オノマトペサ変動詞がもつ特有の活用パタ
ンを明らかにし、オノマトペサ変動詞の記述の精緻化を目指す。


中西淳(M2)「日本人英語学習者の前置詞使用傾向―主要品詞の使用割合に注目して―」
概要:日本人英語学習者の前置詞使用パタンを特定するため、品詞全体に占める使用割合
に注目して調査した。



2017.6.30 兵庫県尼崎市立小田北中学校教員研修会

表記において,数学科の授業を聴講し,アクティブラーニング導入に向けた講話を行いました。

当日の授業は「佐々立て」という和算を素材にし,答えを出す方法を班ごとに生徒に考えさせるというもので,さまざまな解法を比較し,その良し悪しを議論し,数学的な方程式の意義の理解につなげるよう工夫が凝らされていました。

昨年度より,尼崎市教委との関係が始まり,本年度は市内4つの中学校で年間を通して継続的に関わり,各校のAL支援のお手伝いをする予定です。

※同校HPの紹介文より

2017/06/27

2017.6.27 兵庫県立津名高等学校インスパイア―事業特別講演

ここ数年継続して関わっている淡路島の津名高校で,生徒さんによる地域問題解決プレゼンを聴講し,指導講演を行いました。講演では,

1)解決を見つける前に,適切な問題をうまく選び,それを徹底的に分析すること(※問題解決に先立つ問題発見と問題分析の重要性)
2)問題を自分のリアルとつなげること(※「ごっこ」にならないこと)
3)提案そのものの価値を極限まで引き上げること

などについて助言させていただきました。高校生の若い力というのはすばらしいもので,次回以降の「大化け」が楽しみです。

津名高校のブログより



2017/06/21

2017.6.21 学内ピアレビューでの授業公開

神戸大学国際教養教育院「平成29年度前期ピアレビュー(授業参観)」

表記において共通教育英語科目(English Communication)の授業公開を行い,学内の評価・FD委員会の先生方の視察を受けました。あわせて,6/19(月)および本日の2つの授業を研究室主催の授業公開とし,本学附属中等教育学校の先生方,および,大学院国際文化学研究科で石川が担当している応用言語学クラスの受講生に公開しました。

本時の授業は以下の流れで行いました。


見学者が大勢入りましたが,学生諸君は,いつも通り,落ち着いて,良い学びをしてくれたように思います。


2017/06/18

2017.6.18 大学英語教育学会社員総会・理事会参加

旺文社会議室(@神楽坂)で開催された表記の会に参加しました。

はじめに,社員総会があり,次期事業年度の人事が承認されました。石川は,支部選出理事として,JACET賞運営委員会業務を分掌することとなりました。

初仕事は8月の国際大会での各賞授与となります。JACETでは,長年国際交流の仕事をしてきましたが,新しい仕事についても早く覚えてこなせるようになりたいと思います。

2017/06/17

2017.6.17 大学英語教育学会関西支部大会参加


表記に参加し,以下の発表・講演を聴講しました。

(研究発表)
仁科 恭徳/ NISHINA, Yasunori(神戸学院大学/ Kobe Gakuin University)
ビルボード・コーパスを用いた現代ポップ・ソングの特徴に関して
A Corpus-linguistic View on Pop Songs Based on Billboard Corpus

中西 淳/ NAKANISHI, Atsushi(神戸大学大学院生/ Graduate Student, Kobe University)
縦断的学習者コーパスにみる英語主要品詞の出現パタンの変化
Changes in the Frequency Pattern of Major Parts of Speech Found in Longitudinal Learners Corpus

林 智昭/ HAYASHI, Tomoaki(近畿大学/ Kindai University)
発音から文法へ:言語教育における体系性
From Pronunciation to Grammar: Systematicity in Language Education

(講演)
佐々木 みゆき/ SASAKI, Miyuki(名古屋市立大学/ Nagoya City University)
第二言語ライティング研究最前線:長期的観察に見られるパタンと個人差
Recent Trends in Second Language Writing Research: Systematicity and Individuality in Two Developmental Studies

 ゼミ生でもある中西さんの発表は,よく準備されたもので,無事,JACETデビューを終えることができたのではと思います。
 佐々木先生のご講演では,先生の最新の研究の概要が紹介され,大変刺激的でした。先生は,小魚の群れが,中には数匹違う方向に向かうものがあるものの,全体としては同じ方向に進んでいく様子を示したビデオを上演され,学習者の群としての振る舞いと個の振る舞いの関係を同時にモデル化する必要性を提言されました。当研究室のICNALEプロジェクトもまさに同様の方向性を狙ったものであったことに,ご講演を通して,改めて気づかされました。

2017/06/15

2017.6.15 麗澤大学学習者コーパス研究会参加

表記の研究会に参加しました。

Reitaku University Linguistic Research Center (LinC) Workshop
"Theory and Practice in Learner Corpora Studies"

Date: 15:00-16:30, June 15. 2017
Venue: Seminar Room 1a (2nd Floor, Lifelong Education Plaza Building (生涯教育プラザ棟), Reitaku University)

Program:
Andrew N. Struc (Associate Professor, Reitaku University) "Learner Corpus Studies Investigating Crosslinguistic Transfer of Loanwords"

Dr. Jarmo H. Jantunen (Professor, University of Jyväskylä, Finland) "ICLFI Corpus and Annotation of Morphologically Rich Learner Language"

Shoju Chiba (Professor, Reitaku University) "Developing a Learner Corpus of Japanese Learners of Finnish: a Prospectus"

Struc先生は,麗澤大学で構築している日本人学生の英作文コーパス(descriptive+argumentative。一部,同一学生の経年データを含む)を用い,外来語となっている英単語の使用状況を調べた結果,スペルミス(*conbinience)や用法ミス(*go to shopping)が多かったというご報告でした。

Jantunen先生は,フィンランド語学習者による様々なテキストタイプの作文を集めたICLFIを分析し,キーワード,キータグなどを調べ,とくに習熟度マーカーとなるものを探した結果を報告されました。初級者は名詞や動詞基本形の多用によって,上級者は所有格や受動態の使用によって特徴づけられるという結果は英語学習者の場合とも同等で教務深くうかがいました。また,キーワードを,1)トピック関連キーワード,2)ジャンル関連キーワード,3)学習者作文キーワードに区分する立場を示しておられましたが,これは参考になる枠組みです。

Chiba先生は日本人のフィンランド語学習者作文(50本程度)を集め,4段階の言語学的なタグ(morphological/ syntactic/ pragmatic/ semantic)を付与するプロジェクトについて報告されました。small but richは,学習者コーパスが目指すべき1つの方向であり,大変興味深く伺った次第です。


石川研究室で構築中のICNALEとの関係で言うと,エラータグのフレームワークの立て方,スペルミスのコーディング,言語学的な解析情報付与などの点で参考になる部分が多い研究会でした。


2017/06/13

2017.6.13 兵庫県立西宮北高校 特別講義

2017年6月13日
兵庫県立西宮北高等学校 社会探究類型「コミュニケーション英語Ⅱ」 特別講義
石川慎一郎(神戸大)「子供に教えて自分も学ぶ:小学校英語出前授業の成功のために」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

西宮北高校では,高校生が小学校に英語の出前授業に行く面白い実践をやっておられ,私は,3年ほど前からこのプロジェクトのお手伝いをしています。

2017年度の初回講義となる今回の授業では,過去の先輩たちの出前授業の様子を写真等で見てもらい,授業改善のヒントを生徒さん自身に考えてもらうワークショップを行いました。

今年の実践では,訪問時期がクリスマスということもあり,昨年同様クリスマスソングを素材にする予定です。


ただ歌うだけでは,学びにつながりませんので,一例として,歌の中に出てくる重要な音素の中からなにか1個を取り上げて,ゲームを組み込んだ楽しい発音のトレーニングを行い,「発音がちょっとよくなったので英語のクリスマスソングが前よりうまく歌えるようになった!」という成功体験を小学生に味わってもらうのはどうか,と提案しました。

実はこの実践,高校生の側にも大きな変化が生じます。まさに「教えることは学ぶこと」。小学生にうまく教えようと思うと,自分自身が発音の仕組みを理解し,かつ上手にそれができる必要があります。つまり,これから本番までの準備の6か月が,高校生にとっても自分の英語学習を見つめ直す良い機会になるわけです。先輩たちと同じく,今年も北高生は頑張りを見せてくれることでしょう。



2017/06/10

2017.6.10 日英言語文化学会参加

表記年次大会と理事会・評議員会に参加しました。

下記の発表・講演を聴講しました。

講演
日野信行(大阪大学大学院教授)「国際英語の学び:多文化共生をめざして」

発表
根本貴行(東京家政大学准教授) 「母語獲得における経済性の原理と混ぜ操作」

堀部秀雄(広島工業大学教授)
 「〈甘え〉を英語でどういうか? 日本文学の翻訳作品に基づく一考察」

シンポジウム
「世界の言語文化事情 ( 2 ) -共生社会実現を視野に入れた言語理解教育-」
柿原武史(関西学院大学教授)「スペインの言語文化について」
山下誠(神奈川県立大師高等学校教諭)「韓国の言語文化について」 


※日頃から自分の英語授業のお手本とさせていただいている日野先生のご講演をはじめ,いずれも非常に興味深い内容でした。とくにシンポジウムは,ふだん聞けない分野のお話で,非常に面白くうかがいました。英語の研究者は英語の世界に引きこもりがちですが,他の言語の研究者と積極的に交流することで,新しいブレイクスルーが得られる気がします。山下講師は,最近の高校生の中に,歴史や社会から入るのではなく,ストレートにポップカルチャーから入って韓国文化に「はまり」,その勢いで朝鮮語もマスターしてしまう,過去にない,まったく新しいタイプの若者が出てきたことを報告しておられました。講師もおっしゃるように,こういう世代が積み重なっていくことの重要性を感じます。

2017/06/04

2017.4.1 海外論文レポート(随時更新)

最終更新日 2017/8/4

論文サマリー

〇題目:‘The Elevation of Sensitivity over Truth’: Political Correctness and Related Phrases in the Time Magazine Corpus(Timeコーパスに見るPC表現:事実を上回る敏感性)
〇著者:Solveig Granath  Magnus Ullén
〇出典:Appl Linguist amx019. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx019
〇公開日:Published: 18 July 2017
〇石川メモ日:04 Aug 2017
〇概要:
・PC表現に関する量的・質的な時系列分析
・1923~2006年の「タイム」誌コーパスを利用
・1990年代初頭にPC表現使用度が激増
・PC表現使用=とくに文化的イベントのレビュー記事などで主観的意見を客観的事実として伝達する手段となる
・否定的・風刺的用法が全体としては圧倒的
・否定的用法の中では,不文律的な文化規範に対する批判>用語置き換えへの批判
・ただし,先行研究と異なり,PC表現はすべて否定的なニュアンスで伝われているわけではない
・環境/ビジネス関係の記事ではPC表現が「環境意識・社会意識の高さ」という意味で肯定的に使われている
〇所感:環境とジェンダーの親近性はさもありなん。ESDなどでも同等の扱い。


〇題目:Assessing Tasks: The Case of Interactional Difficulty(タスクの評価:インタラクションの難度に関して)
〇著者:Gabriele Pallotti
〇出典:Appl Linguist amx020. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx020
〇公開日:Published: 18 July 2017
〇石川メモ日:04 Aug 2017
〇概要:
・従来の「タスク複雑度」に代わる「タスクインタラクション難度」という新しい概念を提唱
・ターン交代回数,(発話)起動ムーブ数,参与者間の視覚的関係構築(?)(visual access)の3点で定義。
・モデル実証研究として,イタリア語NSに6種の口頭タスクを実施してもらい,提案手法に基づき,タスクインタラクション難度の段階化を試行。
〇所感:頻繁にターン交代が起こるかどうかは,参与者間の力関係(言語力,社会的地位,性別)などにも影響されるのでは? どうしたってリード役と聞き役というのが自然にできてしまう。


〇題目:How Learning Occurs in an Extensive Reading Book Club: A Conversation Analytic Perspective(多読クラスにおける学習のありかた:会話分析の視点から)
〇著者:Eunseok Ro
〇出典:Appl Linguist amx014. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx014
〇公開日:Published: 20 June 2017
〇石川メモ日:4 August 2017
〇概要:
・大量のL2を長期にわたって読解すれば,読解力およびその他の言語能力が向上する。
・実証的証拠は多い (Nakanishi 2015; Jeon and Day 2016)
・だが,学習者が多読を行うことでどのように学習(learning)を成就するのかは未解明・多読クラブの参加者間の発話データを会話分析で調べた結果,以下の傾向を確認
・1)次第に本の内容(book talk)から語彙に関心を向けていく(学習への志向)
・2)さらに学習対象を話の中核に据えていく(短期発達)
・3)学習対象に対して多角的に(発音・意味・綴り・語形)関心を向けていく
〇所感:「よさそうだが,はっきりした教育効果を示しにくい」多読の効用を会話分析で示そうとする研究。コーパスや実験の時代だからこそ,古典的なインタビューデータはますます大事。


〇題目:‘Cracking a Strange Veiled Code’: Language Learning Experiences of North Americans in South Asia(隠された暗号を明らかにする:アメリカ人が南アジアで言語を学ぶ経験)
〇著者:Kaushalya Perera
〇出典:Appl Linguist amx013. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx013
〇公開日:Published: 06 June 2017
〇石川メモ日:04 August 2017
〇概要:
・随想録や自伝における言語習得に関する記述は重要
・大部分は,欧米への移民によるもので,葛藤と喪失がその主要なテーマ
・逆転した状況でのデータはほとんどない
・北米女性が南アジアで現地語を学んだ際の記録を分析
・長期的な言語習得過程や情意面の影響といった言語教育における一般的関心事に加え,言語イデオロギーの変化と,新しい文字書記システムを用いた識字能力の発達を分析
〇所感:よくある研究の逆をやる,というのは自身の研究の独自性を出す重要手段。たしかに,日本人が英語を学ぶよりも,アメリカ人が日本語を学ぶほうが,特殊な要因がありそう。それを文化やイデオロギーに絡めたいというのも首肯できる。また,アルファベット言語を母語とする者にとって,アジア言語は「文字」のインパクトが強いのもよくわかる。


〇題目:The Impact of Mother Tongue Instruction on the Development of Biliteracy: Evidence from Somali–Swedish Bilinguals (母語で教育を受けると,バイリンガル能力の発達にどんな影響が出るか:ソマリ語とスウェーデン語のバイリンガル話者の事例研究)
〇著者:Natalia Ganuza  Christina Hedman
〇出典:Appl Linguist amx010. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx010
〇公開日:Published: 03 June 2017
〇石川メモ日: 04 August 2017
〇概要:
・母語教育(mother tongue instruction:MTI)の影響
・スウェーデンの学校で学ぶアフリカ出身者
・バイリンガル能力(biliteracy)として,2言語における読解力・語彙力に着目
・語の意味理解(word decoding),内容読解,語彙知識(広さと深さ)の3点を調査
・横断調査(cross-sectional), 縦断調査(longitudinal),2言語調査(cross-linguistic)を組み合わせる
・ソマリ語での母語教育は,年齢・移民年・家庭での使用言語の影響をさしひいても,
ソマリ語の内容読解力向上につながった
・さらに,ソマリ語で向上した部分はスウェーデン語でも向上していた(とくに読解力
・週1時間程度でも,移民に母語での教育を行うことは有効
〇所感:アメリカでスペイン系の移民にどちらの言語で教育すべきか,といった議論にも応用可能。また,Cummingの2言語共通基盤説やBICS/CALPの話にも関連する。ただし,これも文化間の力関係や,対象文化への同化志向の強度など,他に関連する要因も多そう。


〇題目:Points of Reference: Changing Patterns of Academic Citation(参照点:学術論文における引用スタイルの変化)
〇著者:Ken Hyland  Feng (Kevin) Jiang
〇出典:Appl Linguist amx012. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx012
〇公開日:Published: 31 May 2017
〇石川メモ日:04 August 2017
〇概要:
・論文中での引用スタイルが過去50年間でどう変わったか?
・220万語のコーパス使用(4分野,1965, 1985, 2015の3つの年)
・引用数は激増。とくに応用言語学と社会学において。
・要因は,1)報告すべき先行研究数が増加したことと,2)電子媒体が増えて先行研究が見つけやすくなったこと
・加えて,3)当該分野の先行知見に自分の研究を適切に埋め込む(appropriately embedding research more securely in disciplinary understandings)点で引用の重要性が向上したこと
・間接話法による報告文体使用は低下(Dr. XXX said that...みたいなものか?)
・non-integral form(?),research verbs(?),現在形,非評価型構文の使用が増加・分野ごとの差はあるが,全般特徴として,人を動作主主語としなくなり,研究者よりも,彼らがやった研究そのものを強調する傾向
〇所感:EAP研究に時系列コーパスの発想を導入。なるほど。これはいろいろと応用できそう。応用言語学での(無意味な!)引用の増加は常々感じていたので結果にも同感。たとえば,あまりに大きすぎる知見について,「語彙は重要である」(石川,2010;山田,2012;岡本:2014)みたいな書き方については,改善が必要だろう。


〇題目:Transivitity Patterns Exhibited by Persons with Dementia in Conversation(認知症患者の会話に見る他動性パタン)
〇著者:Trini Stickle  Anja Wanner
〇出典:Appl Linguist amx001. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx001
〇公開日:Published: 16 March 2017
〇石川メモ日:5 August 2017
〇概要:
・20名の認知症患者と健常者間の発話の統語構造分析
・従前研究の目的は,事象観察(介護者記録使用)or実験調査(認知テスト結果使用)で統語能力研究は関心対象にあらず
・コーパス手法と,インタラクション分析手法を融合する新視点
・健常者と比較しても,遜色のない文法的正確性+幅広い言語能力が確認された
・認知症患者が複雑な動詞の項構造などを使えるのは,言語能力の衰退の証拠ではなく健常者とのインタラクションの結果
・インタラクション要因の中で最も発話の文法性に関連するのは,ある種のインタラクション方略
・この方略により,文法的難度とインタラクション性の高い発話産出が促進され,また,インタラクション機会も増大している
〇所感:コーパス手法と臨床言語学の接点。応用言語学の「応用性」の一つの表れの形。石川(2017)では,こうした研究をもっと紹介すべきであった。


〇題目:Using Native-Speaker Psycholinguistic Norms to Predict Lexical Proficiency and Development in Second-Language Production(NS用の心理実験指標を使ってL2の語彙的流暢性および流暢性の向上を調査する)
〇著者:Cynthia M. Berger  Scott A. Crossley  Kristopher Kyle
〇出典:Appl Linguist amx005. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx005
〇公開日:Published: 13 March 2017
〇石川メモ日:05 August 2017
〇概要:
・L1産出に関する各種の心理言語学的指標を使用し,L2英語発話の語彙的熟達度を調査
・横断的+縦断的学習者コーパス使用(40,481人データ)
・頻度および行動心理学的指標(語彙性判定(lexical decision)と語彙読み上げ(word naming)の潜時+正確性)を調査
・人間の評価者が被験者の語彙習熟度レベルを別途判定
・「語彙力上級」学習者の産出語彙はL1環境では潜時が長く正確性も低い,判定レべルへの寄与度は語彙性判定課題潜時>頻度≒読み上げ
〇所感:ちょっとアブストだけでは研究の趣旨がまだよくわからない。あとで要確認。


〇題目:Advice Giving, Managing Interruptions and the Construction of ‘Teachable Moments’(助言の付与,断絶への対処,教授ポイントの創出)
〇著者:Stef Slembrouck  Christopher Hall
〇出典:Appl Linguist amx004. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amx004
〇公開日:Published: 07 March 2017
〇石川メモ日:05 August 2017
〇概要:
・3歳の障碍児+母親の家庭に家庭教師が派遣された時のやりとりを分析
・系列分析(sequentional analysis, Goffman),フレーム(人間が社会を見取る枠組み)+参与の者関連づけ
・幼児の行動により,教師と母親は助言付与を延期せざるを得なくなる
・教師がどのようにして対処し,そこから母親を「教育する瞬間」を作り出し,学習過程の見せ方をコーチするか
〇所感:正しく要約できていない気がする。Goffmanのフレーム理論を確認する必要あり。


〇題目:The Empirical Validity of the Common European Framework of Reference Scales. An Exemplary Study for the Vocabulary and Fluency Scales in a Language Testing Context(実証データに基づくCEFRの妥当性:語彙スケールと流暢性スケール)
〇著者:Katrin Wisniewski
〇出典:Appl Linguist amw057. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amw057
〇公開日:Published: 07 March 2017
〇石川メモ日:05 August 2017
〇概要:
・CEFR広く使用されるが妥当性はあいまい
・CEFRの能力記述と言語テストでのパフォーマンスにはどの程度関係があるか?
・イタリア語とドイツ語のOPIテスト
・妥当性は弱い
・能力記述文の中には(1)実際には確認できない,(2)すべてのレベルに見られてレベルをわけていないものも
・スケール特性間の相関も弱くクラスターでも分離される→学習者の振る舞いを一貫してとらえるものではない
・実測された流暢性・語彙指標との関連も弱い
・ハイステイクステストでのCEFR採用を考えれば由々しき事態
〇所感:有益な論文。CEFR万能主義への有力な警鐘。「英語教育」誌(大修館書店)での連載で紹介(2017年7月号)。


〇題目:The Mediated/Unmediated Contributions of Language Proficiency and Prior Knowledge to L2 Multiple-Texts Comprehension: A Structural Equation Modelling Analysis(言語能力と前提知識がL2の複合的テキスト理解にどう寄与するか:SEMによる分析)
〇著者:Mohammad Nabi Karimi
〇出典:Appl Linguist amw059. DOI: https://doi.org/10.1093/applin/amw059
〇公開日:Published: 16 February 2017
〇石川メモ日:5 August 2017
〇概要:
・学術分野のL2使用では,単一文書だけでなく,複数文書読解能力(multiple-documents literacy)が必要で,その調査と指導が求められる
・言語能力と前提知識が単一文書読解力,複数文書読解力にどう影響しているか?
・・207人のイラン人学部生を対象に,言語能力,前提知識,単一/複数文書力の間に関連があるかどうかを構造方程式モデリング(SEM)で調査
・言語能力と前提知識は複数文書読解力に直接に寄与するほか,単一文書読解力を経由して間接的にも寄与。
・言語能力と前提知識の寄与度は,単一文書読解か複数文書読解かで変化。
〇所感:「複数文書読解能力」という視点に新しさがあるが,厳密な定義は難しいだろう(個々の文書の難度差の影響も考えられる)。統計手法は手堅く伝統的なもの。結果はおよそ想定の範囲内である。


〇題目:‘You are stupid, you are cupid’: playful polyphony as a resource for affectionate expression in the talk of a young London couple (stupid/ cupidのような語呂合わせ会話による愛情表現)
〇著者:Pia Pichler
〇出典:GENDER AND LANGUAGE (Equinox Publishing) Vol 11, No 2 (2017)
〇公開日:2017/07
〇石川メモ日:05 August 2017
〇概要:
・カップル発話については,言語研究・ジェンダー研究の枠組みでは議論スタイル(協調型vs競争的)が論じられ,社会心理学の枠組みでは愛情表出が論じられてきた。
・本研究は言語学的な談話分析によって親密な人物関係間での愛情表出の分析を目指す
・ロンドンの異なる文化背景を持つカップル発話を対象。
・分析の結果,フレーム,声色,コード,ペルソナが軽々と変更されることが確認された・愛情をあらかじめ定義して,量的にインタビュー発話を分析するだけでは,個性的・創造的愛情表現のすべてを分析できない。
〇所感:インタビューデータに対するコーパス(自然発話)データの有利さを示す論文。ただし逆の場合も少なくない。


〇題目:Academy of devotion: performing status, hierarchy, and masculinity on reality TV(ドキュメンタリー番組における地位・階層・男性性)
〇著者:Cindi L. SturtzSreetharan
〇出典:GENDER AND LANGUAGE (Equinox Publishing) Vol 11, No 2 (2017)
〇公開日:2017/07
〇石川メモ日:5 August 2017
〇概要:
・日本の1990年代は経済後退と少子化。
・男性の家事関与を増やすよう政府のキャンペーンが始まる
・こうした動きへの抗議として,「純情学園男組」(?)というテレビ番組が深夜帯に始まる
・高校教師役で登場する関西のコメディアン2名の言語的・身体的行動を分析。
・分析の結果,政府のキャンペーンに逆行する言説が確認される
・ステレオタイプ的な男性性が覇権的なサラリーマンのイデオロギーと関連付けられる
〇所感:え,そんな番組しらなかった。下記に概要があるがなんともよくわからない。
https://plaza.rakuten.co.jp/higashinori/5010/
著者がどういう背景の研究者かわからないが,日本政府の言説への抗議とかいう解説はどうなんだろうか。。。外国人が外国を研究素材にする場合の危険性,自戒の念を込めて。


〇題目:Is Serbian becoming Croatian? Nationalist counter-reactions to feminist linguistics in Serbia(セルビア語はクロアチア語になりつつあるのか:セルビアにおけるフェミニスト言語学に対する国家主義者の攻撃)
〇著者:Simone Rajilic
〇出典:GENDER AND LANGUAGE (Equinox Publishing) Vol 11, No 2 (2017)
〇公開日:2017/07
〇石川メモ日:05 August 2017
〇概要:
・ユーゴ解体以降,セルビアとクロアチアではともに国家主義が広がる
・セルビアのフェミニストは,セルビア語における女性への差別(女性の不可視化,社会的地位の低い特定のステレオタイプ的文脈と女性が結びつく)を批判
・男性名詞の総称用法も批判。女性には女性名詞を使用すべき(評者注:英語で言えば,manで男女を総称させず,女にははっきり女とわかるwomanを使うべき)。
・伝統的なセルビア語学者による反論:男性名詞の総称用法はセルビア語の「本質」と「精神」。
・同様の議論は諸言語で見られるが,セルビアだけの特殊事情も。
・女性名詞の一部はセルビア語ではなく同属のクロアチア語であるため,女性名詞を使うことは,セルビアの地でセルビア語でなくクロアチア語を使うことになり,結果として,セルビアの国家的統一を壊す可能性がある
・しかし,こうした議論は,2言語がもともと「セルボ・クロアチア語」という単一言語を祖に持ち,語彙の大部分が共有されているという事実を無視したもの。
〇所感:おもしろい。この場合は反フェミと国家主義が結びついているわけだが,逆に,フェミと国家主義,反フェミと国際主義が結びつくという組み合わせもありそう。往々にして,この手の議論はあちら立てればこちら立たずになりがちで,絶対的な解は見出しにくい。


〇題目:An exploratory review of gender ideologies and sexism in the Ga languag
〇著者:Benedicta Adokarley Lomotey
〇出典:GENDER AND LANGUAGE (Equinox Publishing) Vol 11, No 2 (2017)
〇公開日:2017/07
〇石川メモ日:5 August 2017
〇概要:
・ジェンダー言語研究はもっぱら性区別のある言語を対象としており,性区別のない言語への関心は希薄
・性区別のないGa語におけるジェンダーイデオロギーを調査
・Glick and Fiskeによる両義的性差別理論(ambivalent sexism theory)を使用し,言語使用を通して生み出されるジェンダーアイデンティティを分析
・あわせてフォーカスグループディスカッションとインタビューで収集された産出データを,フェミニズム批判的談話分析の枠組みで検討
・ジェンダー階層性を正当化する際には生物学的本質主義が使用されていた
〇所感:冒頭の記述は正確だろうか?英語にも日本語にも,フランス語のようなはっきりした名詞上の性区別はないが,それでも英語・日本語に関わるジェンダー研究は多い。


〇題目:A Longitudinal Study of Voice Onset Time Development in L2 Spanish Stops
〇著者:Charles L. Nagle
〇出典:Applied Linguistics amx011
〇公開日:03 June 2017
〇概要:
・L2発音能力の発達については縦断的な研究アプローチが取られ,発達軌跡(developmental trajectory)が研究対象となる
・その際,音声習得過程における個人差が問題になる
・初級スペイン語を2学期にわたって指導
・b/pの有声開始時間(voice onset time:VOT) がどう変わるか(※VOTは同じ閉鎖音でも有声だと短く無声だと長い) 
・英語をL1とするスペイン語学習者26人
・L2音声(b/p)産出タスクを5回実施
・あわせて,L1である英語の有声閉鎖音(voiced stop)発音時の破裂前声帯振動(prevoicing)頻度を調査するため,英語音産出タスクを1回実施
・発達曲線モデリングの結果,L2のb/p音習得に関しては,線形モデル,または,前半のほうが伸びが大きいことから二次曲線モデル(quadratic ≒放物線)の適合度が高い
・L1で破裂前声帯振動を起こしがちな被験者は,L2のb発音でもそうなる傾向
・ただし,個体差も大きい。pは改善したがbは改善しない非対称型習得学習者も
・発話習得モデル(Speech Learning Model)やL2知覚同化モデル(L2 Perceptual Assimilation Model)で解釈すべき
〇所感:個体差と群特徴をどう切り分けるか?これはNの小さい音声実験研究ではより重要な問題になりうる。


〇題目:At the crossroads between the scientific and the literary discourse: Comparison as a figure of dialogism
〇著者:Marine Riguet  Suzanne Mpouli
〇出典:Digital Scholarship Humanities fqx026.
〇公開日:Published: 21 June 2017
〇概要:
・19世紀後半のフランスの文芸批評テキスト249種をコーパス化,また,小説・哲学・科学・社会・人文科学のテキストと比較
・テキスト内の多声性(dialogism)
・科学に関連すると思われるキーワード18種 (anatomy, biology, physics, chemistry, botany, zoology, astronomy, surgery, medicine, geology, and mathematics)をあらかじめ指定してコーパスから抽出し,検証。
・文芸批評テキストは,科学と距離を置く群と,科学をまねようとする群に二分。
・数学は文学に比してほぼ常に否定的に扱われる
・空間( ‘espèce’)などの科学用語を取り込んで,そこから類推して言説を展開し,文学作品の形態をより詳細に議論することが見られる
・文芸批評は,科学分野から用語を借り入れるだけでなく,それらに新しい意味を与えることで,自身の複雑な性質を保ちながら,自身が諸科学と同じ正当性を持つことを示そうとしている
〇所感:飾りとしての科学,ファッションとしての科学,装置としての科学,発想のインスピレーション源としての科学・・・人文研究におけるこうした科学の換骨奪胎式取り込みは今も変わらない。人文学のいい加減さと見るか,人文学の奥行きの深さと見るか。


2017/06/03

2017.6.3 外国語教育メディア学会中部支部大会 シンポジウム招待発表

CLILとActive Learningをテーマとする表記大会で招待発表を行いました。

シンポジウム「大学英語教育の新局面:CLIL とアクティブラーニングの視点から」
◎「深い理解を促すアクティブラーニングのデザイン」森朋子(関西大学教授)
◎「CLIL, AL, and ELF:英語教育を変える 3 つの視点」石川慎一郎(神戸大学教授)
◎「名城大学外国語学部におけるアクティブラーニングと CLIL の取り組み」村田泰美(名城大学教授)

石川の発表では,以下のようなお話をいたしました。




昨年度末から今年度にかけて,大学での授業実践について人前で話したり,論文にしたりすることが多く,授業理念を整理する良い機会となっています。

内容重視・日本人教員による完全英語化授業・モジュール制での緊張感ある授業設計など,自分の授業の中でこれまで試みてきたことは,

◎CLIL(Content Language Integrative Learning) 内容指導と英語指導を一体化させる
◎AL (Active Learning) 学習者の認知活性を向上させる
◎ELF(English as a Lingua Franca)非母語話者間のコミュニケーションツールとして英語を位置付ける

という3つの理念でうまく整理できるように思います。とくに,「英語ではなく,ELFを教える」のだという観点は,英語母語話者でない自分にとって,指導者としての矛盾感を解消する大きな理論的道具立てとなります。

もっとも,こうした視点は,私独自のものではなく,何度も講演を拝聴し,自分の授業の理想(ロールモデル)とさせていただいている大阪大学の日野信行先生には,下記の論考があります。

Hino, N. (2015). Toward the development of CELFIL(Content and ELF Integrated Learning) for EMI classes in higher education in Japan. Waseda Working Papers in ELF, 4, 187-198.

私の実践も,日野先生のおっしゃるCELFILの枠組みでとらえられるかもしれません。