大学英語教育学会「東アジア英語教育研究会」 第166回例会
(特別シンポジウム) 東アジアの言語研究とL2教育研究 ~コーパスが拓く学際研究の領野~
日時 2016年7月16日(土)13:30~16:00
会場 西南学院大学2号館202教室(福岡市早良区西新)
発表者・発表題目
・石川 慎一郎**「これからのコーパス語彙表の展望:新JACET8000(2016)の開発理念」
・中西 淳* 「日本人L2英語学習者の前置詞使用パタン:習熟度の影響」
・栁 素子* 「中国語可能表現の諸相:能/能够の差異の解明」
・隋 詩霖* 「中日広告言語の比較:化粧品広告の分析」
・張 晶鑫* 「日本語オノマトペ『だんだん』および類義語の関係性」
・肖 錦蓮* 「日本語教育の観点から考える女性文末詞」
** 神戸大学 大学教育推進機構/大学院国際文化学研究科 教授
* 神戸大学 大学院国際文化学研究科外国語教育論講座(院生・研究生)
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特別シンポジウム
「東アジアの言語研究とL2教育研究~コーパスが拓く学際研究の領野~」企画趣旨
研究手法としてのコーパスの特性の1つは,データ分析の手法や枠組みが,個別言語を超えて,様々な言語にそのまま応用しやすいことである。本シンポジウムでは,6本の研究実例を通して,コーパス活用により,英語・日本語・中国語に関してどのような知見が得られるのかを実証的に議論していく。個々の分析実例を相互に比較することで,いわゆる「コーパス準拠言語研究アプローチ」の中に,個別言語に紐づく部分と,個別言語に限定されず,汎言語的に応用可能な部分が存在することが示されるであろう。本シンポジウムが,従来は英語や日本語に限定されがちであったコーパス言語研究の一層の普及の一助になれば幸いである。(オーガナイザー 石川 慎一郎)
個別発表の概要
●石川 慎一郎「これからのコーパス語彙表の展望:新JACET8000(2016)の開発理念」
旧JACET8000がBNC全体から得た頻度を根拠資料としていたのに対し,新JACET8000は,BNCとCOCAの10ジャンルから得た頻度を統計的に合成することで,英米差やジャンル差を考慮したバランスのよい語彙選定がなされている。また,日本人大学生がこれまでに触れてきた英語,現在触れている英語,さらに,近い将来に触れるであろう英語を加味した補正資料を用意し,日本人大学生の英語語彙学習の指針としての妥当性を高めている。本発表では,語彙表の作成理念と作成過程を詳細に紹介し,今後のコーパス準拠語彙表の作成法について概観する。
●中西 淳 「日本人L2英語学習者の前置詞使用パタン:習熟度の影響」
学習者の習熟度測定にはTOEICやTOEFLといった標準的な習熟度テストが広く使用されているが,評価と学習の一体化を目指し,反復的・継続的な評価を行おうとする場合,そうしたテストとは異なる評価のオプションも検討されるべきである。本発表では,学習者にライティングを行わせ,そこに出現した前置詞頻度を計量することで学習者の習熟度を簡易推定する方法について予備的な提案を行う。本研究では,中高生の作文を集めたJEFLL,大学生の作文を集めたICNALE,さらに個人大学生が米国留学中に書き溜めた日誌をデータベース化したJournal Writing Corpusの3種のコーパスを使用し,前置詞頻度から学年・(TOEICスコに基づく)習熟度・英語圏滞在期間を予測するモデリングを試みる。
●栁 素子 「中国語可能表現の諸相:能/能够の差異の解明」
能と能够は,ともに,主体が能力を有しているか,必要な条件が揃っていて,何かが実行可能である場合に使用できる中国語の可能表現である。これら2語の差については,従来,「能は話し言葉で,能够は書き言葉で多用する」ということが言われているが,一方で,一部の例外を除いては,「能够はすべて能に置き換えられる」とも言われている。本研究は,コーパスを用いて,能/能够の頻度・共起語を調査し,従来,必ずしも明らかでなかった2語の差の解明を目指そうとするものである。
●隋 詩霖「中日広告言語の比較:化粧品広告の分析」
近年,日本語学習者の学習動機は多様化しており,中国においては,日本のファッション誌や,そこに掲載された化粧品広告などを通して日本語への興味を抱く事例も少なくない。日本語化粧品広告に使用される言語は,日本語として必ずしも難しいものではないが,特殊なジャンル専門語,倒置,省略,間接表示など,中国の化粧品広告には見られないさまざまな言語的特徴があり,初級の日本語教育を受けただけでは,その内容を把握することは困難である。そこで,本研究では,独自に開発した日中化粧品広告コーパスを分析し,日本語化粧品広告言語の語彙的特性について検証を行い,初級日本語教育を受けた学習者が日本語の化粧品広告を読もうとする際に要求される語彙知識の同定を目指す。
●肖 錦蓮「日本語教育の観点から考える女性文末詞」
「かしら」「だわ」といった女性文末詞は,実際の日本語会話ではほぼ消失しているとされるが,一般的な日本語小説における使用頻度が近年どのように変化しているかは必ずしも明らかでない。そこで,本研究では,BCCWJの書籍(小説)データの年代別頻度分析を行い,女性文末詞の使用状況の変化を計量的に同定するとともに,個々の女性文末詞の典型的共起環境を明らかにすることを目指す。
●張 晶鑫 「日本語オノマトペ『だんだん』および類義語の関係性」
日本語のオノマトペ「だんだん」は副詞として広範に使用されているが,その類義語である「次第に」「徐々に」などとの用法差はこれまでの研究でも完全には明らかになっていない。本研究では,BCCWJの多角的分析をふまえ,3語の表記・頻度・言語使用域・共起パタンなどを計量的に解析し,3語の差異の同定を目指す。
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全体写真(研究会主宰 木下教授とともに)
大宰府天満宮参拝
梅が枝餅試食中