同校で展開している「せかい領域」(小学校低学年向けの英語入門授業)の実践を拝見し,教員対象の指導講話を行いました。
演題:資質・能力を志向する神戸大附属幼小連携教育の実化―せかい領域,英語科を通して―
発表資料より:文科省の新しい学習目標観と附属で研究中の能力観の関係を整理した図です
神戸大学附属小学校の歴史は,1904年に創立された兵庫県明石女子師範学校附属小学校にさかのぼります。同校の教育には,及川平治先生(1875-1939)の教育理念が色濃く反映されています。
及川先生は「分団式動的教育法」の提唱者として知られます。分団というのは一種のグループのことで,現代で言う個別学習・グループ学習・協調学習の理念を先取りした考え方でした。分団式教育では,子供の能力の多様性(「能力不同」)をふまえつつ,グループを学習の営みの中で柔軟に組み替えていきます。また,教授と学習は統合され,子供の主体的な学び,個別化された学びが最優先されます。及川先生の教育哲学は,「静的教育から動的教育へ」「子供の事実の重視」「真理そのものよりも真理の探究法が教授の対象」といったきわめて現代的な視点を含むもので,今もなお全く古びていません。
私は,各地の教育委員会での講演などで,小学校英語の理念,つまりは小学校英語と中学以降の英語教育を切り分ける視点として,「学習者中心(Learner-centered)」「動機(motivation)」と「事実(reality)」と「活動(activity)」「文化(culture)」の重要性を主張してきました。附属でも同じ話をしたところ,同校副校長の梅本先生から,及川先生の教授理念との類似性についてご示唆をいただき,関係を簡単に整理してみました。確かに重複点が多いです。
● 己自身の判断を 尊重し,直 接経験を真理の基 礎とす.児童の直接経験,児童 自身の判 断に基 づ く教育を施すべ し.
→ Learner-centered 教師のお仕着せではなく,児童が自分の判断で,自分なりの言語使用の直接経験を持つことが重要。
●人は 自 らの目的を実現しつつある存在物なりと 視て,教育はこの実現を有効な らしめ る方便 なりとす.
→ Motivation 単なるトレーニングにならぬよう,児童自身の何らかの動機に裏打ちされた個々の目的・目標を達成することを目指すべき。
●児童の独立的活動,自動的仕事を奨励し, 自己の眼を以て視よ 自己の思考を以て考えよ 自己の書葉にて話せ 自己の手にて為せ
→ Activity 児童が主体的・独立的に活動するべき。児童にとっての「リアル」な思考と目標言語使用が重要。
●為すことに因りて思想生活と実地生活とを連絡す.
→ Culture 外国語で言語行動を行うだけでなく,その背後にある思想・文化に思いをはせる。
●特に作業を尊重す.
→ Activity 授業はタスク中心,アクティビティ中心で,学習者の学びの実化を目指す。