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2018/09/29

2018.9.29 計量国語学会出席

計量国語学会第61回大会に参加しました

計量国語学会第61回大会
2018年9月29日【土】10:30~ 17:40
京都教育大学


どの研究も示唆的でしたが,森氏の「コーパス分析における生態的誤謬」にはとくに考えさせられました。コーパスではジャンル単位で分析を行うことが多いですが,仮にテキスト単位で再分析をすると,ジャンルで見られた傾向が再現されないことがある点を発表者は指摘しておられました。「確かに」と納得するとともに,データの抽象化・匿名化・概括化を志向するコーパス研究と,個別的なテキスト分析をどう有機的に組み込むべきなのか,個別テキストの独自性の主張は,最終的にコーパス分析の価値の否定につながるのではないか,等,多くの考えるべき宿題をいただいた気分です。

「生態的誤謬」とは,ecological fallacyの訳語で,全体で当てはまることが個別的な部分に適合しない現象を言います。たとえば,地域比較をして言えたことが(例:関東人は・・・関西人は・・・),それぞれの地域に住む個人単位で見てみると再現されない,といった現象です。いわゆる「合成の誤謬」と似た概念と言えるかもしれません。研究では,「背景因子があまりにも違いすぎる集団を平均値で比べる時には、Ecological fallacy (生態学的誤謬)に陥ることがある為、注意が必要」とされます(阪大医学研究科サイトより)。

「生態的誤謬」はSimpson's paradoxとも呼ばれます。これについては進化生物学のOnigiritani (id:lambtani)氏による解説(サイト)が参考になります。サイトに掲載されている事例(大学の男女比)をごく単純化すると,以下のようなことになりそうです。

最近,医大が男子学生を優遇しているという話がありましたが,いま,ある総合大学の女子学生比率が23%だったとします。この大学もずいぶん男性優先的?女性差別的?大学に見えます。

しかし,大学の内訳が以下のようだったらどうでしょう?

工学部(定員800人,女子10%)
文学部(定員100人,女子70%)
家政学部(定員50人,女子80%)
看護学部(定員50人,女子80%)

たしかに,大学全体の女子比率は(80+70+40+40)/1000≒23%となりますが,実は,定員の多い工学部に男子が多いというだけで,ほかの3つの学部ではむしろ女子に極端に偏っています。大学が全体として女性差別をしているとは言うのは不適切でしょう。このとき,大学全体で見れば「女性差別」ですが,学部単位で見れば「女性優遇」であるという矛盾した結果になり,これも生態的誤謬の亜種と言えます。

コーパス言語学者もこうした問題を考える必要があると,認識を新たにした1日でした。

会場風景







2018/09/21

2018.9.21 尼崎市立日新中学校アクティブラーニング教員研修会での講話

9月は尼崎の中学校での講演が3件ありましたが,日新が3校目となります。

講師:石川慎一郎
演題:DALで変わる授業と変わらない授業

今回は,美術(色のイメージを考えて作品を作る),家庭科(健康的な夕食メニューを考える),保体科(50メートル走のタイムを向上させる)という3つの実技系科目を視察し,それぞれにアクティブラーニングの観点からの講話を行いました。

講演では,とくに実技系科目でのアクティブラーニングの導入の必要性について主張を行いました。


実技系科目では,教師は,授業時間の中でできるだけ生徒に運動させたい(歌わせたい,絵をかかせたい,調理実習させたい,実験させたい・・・)という気持ちを持ちます。これはこれで大切なことです。しかし,そこだけに偏ってしまうと,体は動いているが頭は動いていない,ということが起こりがちです。体を動かす授業と,頭を動かす授業,このベストミックスが,子どもの思考力の深化と学力向上に不可欠であると言えるでしょう。


2018/09/20

2018.9.20 尼崎市立小田北中学校アクティブラーニング教員研修会での講話

表記で理科の授業視察と講話を行いました。

講師 石川慎一郎(神戸大教授)
演題 「思考を活性化するDAL型授業―実験より大事なこと―」

中学校や高校を回っていると,「体育や理科の授業は,アクティブラーニングをやりやすくていいね」とおっしゃる先生がいますが,実際のところ,これらの科目は,表層的なアクティブ(体のアクティブ,見かけのアクティブ)にはなっていても,深層的なアクティブ(対話的で深い思考と学び)になっていない場合が少なくありません。

そうした中で,今回の理科の授業は,実験ではなく,あえて実験の前の授業を取り上げて,自分自身で実験手法をシミュレートさせるというきわめて意欲的なものでした。生徒さんの討議も盛り上がり,深いアクティブラーニングへの確かな近接が認められました。尼崎の学校に入り始めて3年目になりますが,このような授業が増えてきたことを嬉しくも頼もしく感じました。

過去の指導の記録
(1) 2017/6/30  AL入門。キーコンピタンシー。 MARCH。+数学(さっさ立て)授業講話
(2) 2017/11/14  新井(2017)調査。ALの原則。+国語(故事成語),保体(サッカー)授業講話
(3) 2018/2/13  ALによる道徳授業。ALと科目の相性。思考のふり幅。+学年別授業(認知症のおばあちゃん,19から大事なもの選ぶ,スピード違反を定期発されて臨終に立ち会えず)への講話
(4) 2018/7/31 ALを導入する必然性。+数学(平方根),理科(水源)授業講話
(5) 2018/9/20  ALとDAL +理科(気体同定)授業講話

講話では,生徒に与える問いをさらにピンポイントに絞ることで,思考を深化させる可能性について提案を行いました。

たとえば,気体の同定実験の場合,あまり制約を設けず,どんな手法の組み合わせがよいでしょう,とやると,範囲が広すぎてなかなか思考が深まりません。一方,主な同定手法を比較させ,ベストなものを選ぶ,というようなタスクであれば,思考の方向性は1つにまとまり,班での議論を深めてくことが容易になります。



アクティブの授業では,生徒の自立性を大事にしつつも,学習の実をあげるために,教師による介入・援助をどの程度入れていくか,その微妙な匙加減が悩ましいポイントです。

2018/09/17

2018.9.17-19 APCLC2018で研究発表

The 4th APCLC(Asia Pacific Corpus Linguistics Conference)で研究発表を行いました。

この会は,APCLA(Asia Pacific Corpus Linguistics Association)が主催するもので,2016年の北京大会に続いての参加となります。

The Asia Pacific Corpus Linguistics Association invites you to submit your papers to APCLC 2018 (17-19, September, 2018) in Takamatsu City, Kagawa Prefecture, Japan.

Following on from the success of the previous conferences (Auckland 2012; Hong Kong 2014; Beijing 2016), we hope to again bring together academics from around the world, and from the Asia Pacific area in particular, in order to report on the developments in the use of corpora in linguistics, language learning, and translation studies. Through this conference, we aim to provide a forum for the exchange of ideas and expertise and to lay the foundations for future developments in the application of corpus resources in Asia
Theme Corpus Linguistics in Interdisciplinary & Asia Pacific Perspectives

大会風景

石川発表

懇親会での二胡の演奏

懇親会での太鼓の演奏

石川は,ICNALEの作文データを解析し,日本人・中国人・ネイティブの所有格Sの用法について報告を行いました。

Sep 18, 2018
Shin Ishikawa
S-genitives and Of-genitives Seen in English Native/ Non-native Speakers’ Essays:
A Study Based on the ICNALE Written Essays

所有格については,the Queen's arrival/ the arrival of the Queenという2つの表現形式が存在するわけですが,どのような文脈でどちらを選ぶかの動機は従来必ずしも解明されていません。この点に関して,母語話者・非母語話者の差がどのような形で出現するか調査を行いました。

非母語話者と母語話者によるs所有,of所有の使用状況



そのほか,多くの発表を聴講しました。以下は,石川が司会を務めた発表について,聴講メモです。

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Automatically Enhancing Tagging Accuracy and Readability for Common Freeware Taggers (Martin Weisser)
・生起確率ベース(probabilistic tagging)の既存POSタグの出力には問題や不整合が多い(タグをアンダーバーで示すかタグで示すか,レマもつけるかどうか,どういう略号で表示するか,etc/解析結果に違いも)
・数詞の場合,CD,JJ,Numなど略号もさまざま
・既存タガーの出力を修正するプラットフォームとしてTagging Optimiserを開発中


Using gestures in speaking a second language---A study based on a multi-modal corpus (Sai Ma, Guangsa Jin, Michael Barlow)
・英語の習熟度が高いと,ジェスチャーが増えるという報告(Nicoladis Pika Yi & Marentette 2007),減るという報告(Nicoladis 2002),変わらないという報告がある(Nagpal Nicoladis)
・ジェスチャー効果はLeveltモデルに基づく各種仮説で説明できる
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Cf: 石川による関連研究のまとめ
濱本秀樹(2015)「統語構造を反映したジェスチャー:記憶・再生効果に関する予備的研究」より引用
Conceptualizerr:概念形成装置に関して→語彙引き出し仮説 (lexical retrieval hypothesis:LRH):ジェスチャーが先行刺激となりプライミング効果によりレキシコンから適切な語彙が引き出される
Formulator:文法/音韻的符号化装置に関して→情報パッケージ仮説(information packaging hypothesis:IPH):ジェスチャ―が空間―運動系の概念をまとめ、組織化する/イメージ活性化仮説(image activation hypothesis:IAH):ジェスチャーにより発話形成時のイメージや空間特性の記号化が活性化される
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・実験の狙い:61人の中国人大学生を対象に,タスクの内容の抽象性,行為の主体性がジェスチャー量に及ぼす影響を解明する
・仮説:concrete+character > concrete+observer > abstarct
・タスクA:道順説明  route description [concerte/character]
・タスクB:イラスト説明 cartoon retelling [concrete/ observer]
・タスクC:幸福な体験説明 happy experience  [abstarct]
・書き起こしは逐語式(verbatim)で学生自身にさせて後で教師が検証
・言い淀みなどはカット(ELAN (Lanusberg & Sloetjes 2009)使用)
・1-2 NS  1-3 S 2-3 S
・ジャスチャー量と発話量は正相関
・concrete/abstarctは差があるが,character/observerの差ははっきりしない
(※最後のほうはメモが取り切れなかったので正確でないかもしれない)

Michael Barlow
・idiolect/sociolectの差をどうとらえるか
・伝統的に言語学はsociolectを重視してきた(ラング>パロール)
・大統領報道官の人の差
・それぞれの記者会見の時期(=発話内容)の差
・人の差が大きい
・書き言葉・話し言葉の差も


※今回の学会では,コーパス言語学の本質的な問いの1つである「個体差と一般化」に関わる議論に直接・間接に言及するものが多くありました。

コーパス研究では,集めたデータを母集団の代表とみなし,そこから得られた結果を概括化・抽象化して結論を導き出すことが一般的ですが,そこには常に,一般化の誤謬が潜んでいます。この点をふまえると,コーパス丸ごとではなくジャンルで見よう,ジャンル丸ごとではなく個々のテキストで見よう,テキスト丸ごとではなくパラグラフで見よう,パラグラフ丸ごとではなくセンテンスで見よう・・・という主張が成り立ちます。これらはコーパス研究の通説や前提的な分析手法への異議申し立てという点では価値を持ちますが,一方で,こうした議論は際限のないものです(どんどん腑分けしていくと,最後は形態素まで分解されてしまう・・・)。私はかつって,これを「玉ねぎの皮むき」の比喩で論じたことがあります。実際のところ,そうした細かい単位のデータ分析から得られた断片的な言語記述が,全体として,どのような言語学的価値を持ちうるのかははっきりしないところです。

たとえば,私のやっている学習者コーパスで言うと,「日本人学習者の特徴」とか,「上級学習者の特徴」とか,「母語話者の特徴」といったことを,しばしば「概括的に」議論するわけですが,それらのデータをのぞけば,その中にも,巨大な個人差が存在します。かといって,一般化・概括化を避けて,個人差・個体差を言い立てるだけでは,教育的示唆は永遠に得られないでしょう。

この微妙なアンビバレンツをどう扱っていくか,今後のコーパス研究の大きな課題の1つと言えます。



2018/09/15

2018.9.15 JALT Vocabulary SIG Conferenceで招待発表

表記で招待発表を行いました。


発表では,大学英語教育学会(JACET)の語彙表開発の歴史をたどりながら,JACETがこだわってきた「日本人大学生のための英語語彙」という構成概念について議論を行いました。

発表スライドより:JACETの語彙表(1版~5版)


大会風景

投野教授による講評

発表後には,discussantであった東京外語大の投野由紀夫先生から,発表へのコメントも頂戴することができ,大変,実り多い1日となりました。

2018/09/14

2018.9.14 尼崎市立武庫東中学校アクティブラーニング教員研修会で講演

表記で,授業視察を行った後,講話と講演を行いました。


アクティブラーニングについてはプラスの面だけが紹介されがちですが,一方で,時間を食う・手間がかかるというデメリットもあります。つまりは,それを導入することによる教育的なプラス(ゲイン)とマイナス(コスト)を秤にかけた上で,効果の最大化が期待できるようにアクティブラーニングを導入していくことが重要と言えるでしょう。
授業の設計にあたり,教師自身がこの点を自覚的に考える習慣をつけることは,自分の授業の中にある様々な要素(単純理解,定着,深い思考・・・)を整理することにも役立ちます。

武庫東中学校での指導の記録
(1) 2016/9/16  AL入門+数学授業に対する講話
(2) 2017/1/24  ALを取り入れた道徳授業づくり
(3) 2017/9/13 ALからDALへ+地理・生物授業の講話
(4) 2018/1/16 防災授業の講話
(5) 2018/9/14 ALのコストとゲインの関係+国語・保体授業の講話

2018/09/12

2018.9.12-13 高校検定教科書音声CD録音

代表著者を務める検定教科書(コミュニケーション英語Ⅲ)のCD作成のため,大阪のスタジオで音声取りを行いました。

ネイティブのプロのナレーターが録音するのですが,我々は,それを手元の原稿と一字一句照合しながら,発音をチェックしていきます。単語によっては複数の発音を許容するものがありますが,教科書が紹介する発音とナレーターの発音が厳密に一致するよう細かい取り直しや調整をかけていきます。

学年進行で教科書を作ってきましたので,この作業も今年で3年目になりますが,参加するたびに,新たな学びや発見が多くあります。これを使う高校生諸君の英語の学びの支援になればと願います。