神戸大の国際文化学研究科では1月初旬が修士論文・博士論文の締め切りなので,現在,ゼミ生は研究室にこもって論文執筆の真っ最中である。慣れない論文を延々と書くのはつらい作業であろうが,書き続けることで見えてくるものもある。
ちょっと前の文芸雑誌を読んでいて,気になる文章があったので,引用する。
…一時期,わけがわからないまま書きつづけてみてわたしが得たのは,時間と労力を傾注して何やかやを暗中模索するうちに,案外,小説めいた(※本文は傍点)何かがおのずと形をなしてくるものだといった,楽天的と言えば楽天的な認識であった(中略)たとえば,或る部屋で誰かがテーブルに向かって座っていると書き出してみる。では,それはどういう人物なのか,男なのか女なのか(中略)。作家は言葉を次々に繰り出し,重ね合わせ,人や物の存在の様態を「限定」してゆく。
松浦寿輝(2015)「黄昏客思 第18回 行路峻嶮」『文學界』69(6), 262-269.
これは散文と韻文を両方手掛ける著者が,散文というのは「醸造酒的」な「雑」が持ち味であるのに対し,韻文は「蒸留の操作に似た何かを施した言語態」であると主張するエッセイの書き出し部なのだが,上の部分だけを取り出して,少し言葉を変えると,論文執筆に悩む若き大学院生に送る良い言葉になりそうである。
わけがわからないまま書きつづけ…時間と労力を傾注して何やかやを暗中模索するうちに,案外,論文めいた何かがおのずと形をなしてくるものだ…たとえば,或る部屋で誰かがテーブルに向かって座っていると書き出してみる。では,それはどういう人物なのか,男なのか女なのか・・。研究者はデータを次々に繰り出し,重ね合わせ,人や物の存在の様態を「限定」してゆく。
学問分野によって違いはあろうが,記述的で探索的な分野の研究者であれば,みな一度や二度はこういう経験をしているのではないだろうか。「神が降りて来る」と言い切る蛮勇はないにせよ,黙々と論文を書いていると,何か吾知らぬところから吾知らぬものが「おのずと形をなしてくる」という瞬間が確かに存在する。
若い大学院生の諸君には,在学中に,「わけがわからないまま書きつづけ」る経験をできるだけ多く積んでもらいたいと思う。執筆,頑張れ!
神戸大学 大学教育推進機構/大学院国際文化学研究科外国語教育論講座/数理・データサイエンスセンター 石川慎一郎研究室の活動報告サイトです。 研究室トップページ http://language.sakura.ne.jp/s/
このブログを検索
2019/11/28
2019/11/09
2019.11.9 語彙・辞書研究会で招待発表
第56回語彙・辞書研究会
日時:2019年11月9日(土) 13:25開始(13:15開場)~17:00
場所:新宿NSビル 3階 南3G会議室
[シンポジウム]「国語辞書の文体・位相・語感の記述について」
基調講演
中村明(早稲田大学名誉教授)「空想の国語辞典—語彙・意味と文体・語感の周辺—」
発題
石川慎一郎(神戸大学)「コーパス調査に基づく「文体・位相・語感」の記述の可能性—日本語学習者のための発信型辞書の開発を見据えて—」
宇野和(お茶の水女子大学大学院生)「接尾辞ミと「味」の特徴—近代からTwitterまでを例に—」
東中竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)「対話システムの文体とキャラクタ性」
司会 山崎誠・柏野和佳子(国立国語研究所)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当日は,英和辞書の作成過程をふまえ,国語辞書開発において,文体・位相・語感をどうあつかうべきか,また,それを支援するためにどのようなコーパスシステムが必要か,といったお話をさせていただきました。
日時:2019年11月9日(土) 13:25開始(13:15開場)~17:00
場所:新宿NSビル 3階 南3G会議室
[シンポジウム]「国語辞書の文体・位相・語感の記述について」
基調講演
中村明(早稲田大学名誉教授)「空想の国語辞典—語彙・意味と文体・語感の周辺—」
発題
石川慎一郎(神戸大学)「コーパス調査に基づく「文体・位相・語感」の記述の可能性—日本語学習者のための発信型辞書の開発を見据えて—」
宇野和(お茶の水女子大学大学院生)「接尾辞ミと「味」の特徴—近代からTwitterまでを例に—」
東中竜一郎(NTTメディアインテリジェンス研究所)「対話システムの文体とキャラクタ性」
司会 山崎誠・柏野和佳子(国立国語研究所)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当日は,英和辞書の作成過程をふまえ,国語辞書開発において,文体・位相・語感をどうあつかうべきか,また,それを支援するためにどのようなコーパスシステムが必要か,といったお話をさせていただきました。
当日のスライドより
2019/11/08
2019.11.8 神戸大学国際文化学研究科「コロキアム3」でゼミ生が発表
神戸大国際文化学研究科では,D3の10月に「予備審査用博士論文」を提出し,講座の全教員が出席する公開試験(コロキアム3)に合格すれば,翌年1月に「博士論文」を提出し,最終試験を受けられるという制度になっています。
D3生にとって学位取得のための大きな関門である「コロキアム3」でゼミ生が発表しました。
2019 年度 神戸大学大学院国際文化学研究科グローバル文化専攻外国語教育系
予備審査用博士論文審査(コロキアムⅢ)
日時:2019 年 11 月 8 日(金)14 時より
会場:国際文化学研究科 D 棟 603 号室
14 時 00 分~14 時 45 分
張 晶鑫 外国語教育コンテンツ論
「現代日本語におけるオノマトペの用法解明と中国人日本語学習者のためのオノマトペ指導に対する提言―コーパス言語学の教育的応用の可能性をめぐって―」
司会:大和 知史教授
*判定会議
14 時 45 分~15 時 15 分 コース会議 (会場:D601 号室)
15 時 15 分~15 時 45 分 講座会議 (会場:D603 号室)
後日,無事に合格となり,ほっとしています。いよいよD論の提出です!
D3生にとって学位取得のための大きな関門である「コロキアム3」でゼミ生が発表しました。
2019 年度 神戸大学大学院国際文化学研究科グローバル文化専攻外国語教育系
予備審査用博士論文審査(コロキアムⅢ)
日時:2019 年 11 月 8 日(金)14 時より
会場:国際文化学研究科 D 棟 603 号室
14 時 00 分~14 時 45 分
張 晶鑫 外国語教育コンテンツ論
「現代日本語におけるオノマトペの用法解明と中国人日本語学習者のためのオノマトペ指導に対する提言―コーパス言語学の教育的応用の可能性をめぐって―」
司会:大和 知史教授
*判定会議
14 時 45 分~15 時 15 分 コース会議 (会場:D601 号室)
15 時 15 分~15 時 45 分 講座会議 (会場:D603 号室)
後日,無事に合格となり,ほっとしています。いよいよD論の提出です!
2019/11/07
2019.11.7 兵庫県立長田高等学校特別講義
人文・数理探究類型の1年生の生徒さんを対象に,探究活動のキックアップとして「リサーチメソッド」の講演を行いました。
演題:はじめての探究―社会と私を接合する―
演題:はじめての探究―社会と私を接合する―
講師:石川慎一郎(神戸大学大学教育推進機構教授)
講演では,探究の理念や,探究を通して社会への接合性を再確認することの重要性をお話させていただきました。
当日のスライドから
また,探究活動を行っていくうえで,文理を分離させず,融合していくことの重要性を強調し,学校に対しては,文理融合チームの結成や,文系チームと理系チームのバディシステムの導入による「相互聞きあい制度」の創設を提案させていただきました。優秀な高校生の皆さんによる3年後の探究発表が楽しみです。
2019/10/30
2019.10.30 神戸大学史展を観覧
下記を観覧しました。
神戸大学史・特別展「新制「神戸大学」の誕生-新制大学発足70周年記念-」
於:神戸大学百年記念館
母校に勤めることの愉悦の一つは,日々の通勤の道すがら,まったく同じ道を歩いていた18歳の自分と疑似的にリンクできることである。
なんだかんだで長いつきあいのある大学なので,たいていのことは知っているつもりになっていたが,こうした展覧会に出ると知らなかった発見がいくつもある。
今回の発見4つ
1)神戸大の前身学校はそれぞれに大学昇格を目指していたが,その際,京大に合併するプランと,阪大に合併するプランがあった
2)当初文部省は「兵庫大」という名称を主張してきたが,押し返して「神戸大」となった
3)各前身校の伝統がそれぞれ異なるので新生神戸大は長らく開学記念日が決められず,最後は執行部が「この日は晴れが多いから」という理由で決定した(しかも,にも拘らず翌年はどしゃぶりだった(笑))
4)正門の青銅の校名版は職員が退職金で作った
ふつう,大学史と言えば,天下国家を論じたり,人類幸福といった仰々しい話ばかりと思われがちだが,愛すべき母校の過去は「くすっ」となるような小粒なエピソードが多く,まあ,それもまた妙味。
下記は当日の展示から
神戸大学史・特別展「新制「神戸大学」の誕生-新制大学発足70周年記念-」
於:神戸大学百年記念館
母校に勤めることの愉悦の一つは,日々の通勤の道すがら,まったく同じ道を歩いていた18歳の自分と疑似的にリンクできることである。
なんだかんだで長いつきあいのある大学なので,たいていのことは知っているつもりになっていたが,こうした展覧会に出ると知らなかった発見がいくつもある。
今回の発見4つ
1)神戸大の前身学校はそれぞれに大学昇格を目指していたが,その際,京大に合併するプランと,阪大に合併するプランがあった
2)当初文部省は「兵庫大」という名称を主張してきたが,押し返して「神戸大」となった
3)各前身校の伝統がそれぞれ異なるので新生神戸大は長らく開学記念日が決められず,最後は執行部が「この日は晴れが多いから」という理由で決定した(しかも,にも拘らず翌年はどしゃぶりだった(笑))
4)正門の青銅の校名版は職員が退職金で作った
ふつう,大学史と言えば,天下国家を論じたり,人類幸福といった仰々しい話ばかりと思われがちだが,愛すべき母校の過去は「くすっ」となるような小粒なエピソードが多く,まあ,それもまた妙味。
下記は当日の展示から
2019/10/25
2019.10.25 国際文化学研究科外国語教育コンテンツ論コース2019年度第4回集団指導でゼミ生が発表
研究科の集団指導でゼミ生5名が発表しました(D3は今回は発表対象外です)
<日時・場所>
2019年10月25日(金) 8:50-11:30(予定)
D615教室
<プログラム>
09:10-09:30 中西淳(D2)「前置詞の用法分析のサンプルとしてat・in・on の3 語を指定することの妥当性について」
10:25-10:40 王思閎(M2)「書き言葉コーパス・話し言葉コーパス・母語話者コーパス・非母語話者コーパスの四元分析に基づく日本語基本オノマトペの検討」
10:45-11:30 ポスター発表
肖 錦蓮(D1)「現代日本語における一人称複数代名詞の選択と書き手スタンスの表出」
鄧琪(D1)「コーパスに基づく漢語・外来語形状詞の「ナ」・「ノ」による名詞修飾節の調査」
石田麻衣子(M1)「小学校英語教育で扱うべき語彙̶現行の中学1 年教科書と新課程の小学校5・6 年教科書の統計的比較から̶」
<日時・場所>
2019年10月25日(金) 8:50-11:30(予定)
D615教室
<プログラム>
09:10-09:30 中西淳(D2)「前置詞の用法分析のサンプルとしてat・in・on の3 語を指定することの妥当性について」
10:25-10:40 王思閎(M2)「書き言葉コーパス・話し言葉コーパス・母語話者コーパス・非母語話者コーパスの四元分析に基づく日本語基本オノマトペの検討」
10:45-11:30 ポスター発表
肖 錦蓮(D1)「現代日本語における一人称複数代名詞の選択と書き手スタンスの表出」
鄧琪(D1)「コーパスに基づく漢語・外来語形状詞の「ナ」・「ノ」による名詞修飾節の調査」
石田麻衣子(M1)「小学校英語教育で扱うべき語彙̶現行の中学1 年教科書と新課程の小学校5・6 年教科書の統計的比較から̶」
2019/10/06
2019.10.4-6 英語コーパス学会第45回大会でシンポジウム発表@高知県立大学
理事会(4日)および大会(5-6日)に参加し,最終日に実施されたシンポジウムで発表を行いました。
Day 2 10月6日(日)
●シンポジウム:13:30–15:00(場所:A101)
Gazing into a crystal ball: what you can see in the future of corpus linguistics
Chair:Yukio Tono(Tokyo University of Foreign Studies)
Yukio Tono(Tokyo University of Foreign Studies)
Shin’ichiro Ishikawa(Kobe University)
Hitoshi Isahara(Toyohashi University of Technology)
Tony McEnery(Lancaster University)
シンポジウムでは,司会の投野先生から「6つの質問」が示され,各自がそれぞれの立場で回答を行いました。
コーパス言語学の未来を考える6つの質問
1) Are there any new types of corpora in the future? What kind of corpora would you like to create?
2) Any innovations in collecting, annotating, and analysing texts?
3) What are some of the new types of applications of corpora?
4) Can the term "corpus linguistics" still survive?
5) How can linguists or language practitioners benefit from future corpora?
6) Any other innovations or methodological breakthrough?
石川のとりあえずの回答
1) ICNALEの拡張と,新発想の日本語コーパス
2) 自動書き起こしはすでに実用化されているがその精度が高まり発話コーパス構築の垣根が下がる
3) 身近なところでは学校現場でのIR(教学分析)など
4) 意味を変えつつ現存する
5) コーパスは言語を見る「態度」を教えてくれるものでその基本的価値は(たとえばAI等で言語処理ができるようになったとしても)変わらない
6) 技術面・手法面よりはむしろ「テキスト回帰」の中でbreatthroughを探りたい
といったところです。
Day 2 10月6日(日)
●シンポジウム:13:30–15:00(場所:A101)
Gazing into a crystal ball: what you can see in the future of corpus linguistics
Chair:Yukio Tono(Tokyo University of Foreign Studies)
Yukio Tono(Tokyo University of Foreign Studies)
Shin’ichiro Ishikawa(Kobe University)
Hitoshi Isahara(Toyohashi University of Technology)
Tony McEnery(Lancaster University)
シンポジウムでは,司会の投野先生から「6つの質問」が示され,各自がそれぞれの立場で回答を行いました。
コーパス言語学の未来を考える6つの質問
1) Are there any new types of corpora in the future? What kind of corpora would you like to create?
2) Any innovations in collecting, annotating, and analysing texts?
3) What are some of the new types of applications of corpora?
4) Can the term "corpus linguistics" still survive?
5) How can linguists or language practitioners benefit from future corpora?
6) Any other innovations or methodological breakthrough?
石川のとりあえずの回答
1) ICNALEの拡張と,新発想の日本語コーパス
2) 自動書き起こしはすでに実用化されているがその精度が高まり発話コーパス構築の垣根が下がる
3) 身近なところでは学校現場でのIR(教学分析)など
4) 意味を変えつつ現存する
5) コーパスは言語を見る「態度」を教えてくれるものでその基本的価値は(たとえばAI等で言語処理ができるようになったとしても)変わらない
6) 技術面・手法面よりはむしろ「テキスト回帰」の中でbreatthroughを探りたい
といったところです。
登録:
投稿 (Atom)