日本語教育方法研究会(JLEM)の56回研究会に参加しました。オンラインなので,多くの発表を一度に聞けて有益でした。言語学的研究,現場指導型の研究のバランスもよく,1日楽しませていただきました。
コーパス系研究の聴講メモ&予稿集からのメモ(文責:石川)
金・金庭(pp.4-5) 「てしまう」をYNUコーパス(七夕紹介作文)で調査。教科書後半で導入。完了用法+評価用法(後悔・遺憾・困る)。使用量はC/KともJの1/3強。七夕紹介文の5部に分割。Jは否定的内容で使用。C/Kはすべてで満遍なく使用。
宮口(pp.20-21) 様態の「そうだ」はN接続しないとされるがコーパスにはN接続がある。BCCWJでは全30例,人(例:いい人そうだ)(9),気持ち/金持ち(2)。筑波WCでは110例のサンプル調査中,人(48),金持ち(20),余裕(13)。
黄(pp.22-23)介護福祉士国家試験の出題基準中の用語をシードワードとしてSketch Engine上でネット資料から170万語コーパス構築。JaTenTenと比較した場合の特徴語は認知症,経管栄養,アセスメントなど。また,8回分の過去問から6万語のコーパスを構築。LLRによる特徴語は飲水,両脚,エクリンなど。
北村・松本・川村(pp.24-25)NHKの小3以下のこども用番組51時間分を書き起こし。有用度指標(log(出現頻度)×レンジ比率)でランキング。トップは,いる,なる,できる・・・など。
スワンナクート(pp.40-41)I-JASのタイ人とJNSの対話データ(昨日の出来事)における「そして」使用。JJJ6回 vs TTH(中級)53回。TTH使用のうち,7割は不自然(不要な場合,それから・それで・そのあとはetcで置き換えるべき)。タイ語のレウコーとの比較。
張(pp.52-53)NSTが3名(初級・中級・上級)のCLJと対話。会話満足度・印象の良さ・日本語レベルの3観点で発話評価。後にフォローアップインタビュー。インタビューデータをコーディングすると「相手の観察に基づく判断」(文法・語彙・間違い・音声・内容・展開・スムーズさ・表現レベル・コミュニケーション力・ポライトネス・発話量)と「自己内省に基づく判断(≒会話時に自分が行った意識的配慮)」。
内藤・三好(pp.70-71)先行研究に「原因は悪い結果・出来事」に,「理由は良い結果・出来事」にも使うという記述がある。JCK作文コーパス(意見文・説明文・歴史文)で2語の使用を調査。JとKは類似,Cは「原因」を過剰使用。参考資料として日本人の論文コーパスを調べると原因は25/26が否定的,理由は26文中行動理由15回,論拠9回,中立1回で肯定的理由はなし。
➡石川補足:原因=悪については,広辞苑・岩国で記述なし。明解は初版はなかったが2版で追記。ただし,研究社類義語辞典では「原因=外的要因/理由=内的要因」とされる。そもそも,善悪二分法は分類基準としてsolidだろうか? (参考)研究社での用例「学校を休んだ原因はなくても、休む理由の一つくらいはあるはずだ」
向井・中村・近藤(pp.82-83)引用の諸相。A直接引用(例:「」が挙げられている/~としているetc),B末尾出典(例:~~(出典)),C文を超えた引用(例:第1文,第2文(出典))の3タイプ。学習者に日本語論文を読ませ,引用されていると思う箇所にマーキングをさせた。正答率が低かったのはB/C型(とくにB)。BCには研究情報提示・時系列的説明が多い。
向坂(pp.114-115)学術論文では「ので・ため」を使い,「から」(後件に対する理由根拠を《主観的》に説明)は使うべきでないとされる。実際の文系論文10本,理系論文5本を調査。からの頻度(/50万語)は,文系は9/10で50以上に(トップは刑法220・宗教哲学190・国際経済80),理系は1/5,数学のみ50以上。日本文学・宗教哲学・社会学・刑法では,ので<から。からとそれ以外の関係は,formalityではなく主観・客観ととらえるべき。
ファム(pp.126-127)I-JASのSW1のベトナム人の複合動詞使用を調査。NSは~込むが25例なのに対し,ベトナム人は1例のみ。
辻本(pp.132-133)I-JASの中国人のエッセイ作文で「てしまう」を調査。NS/CLJともに残念用法が多く,完了用法は少ない。頻度はNS>CLJ。