表記大会で口頭発表を行いました。
石川慎一郎(神戸大) L2日本語学習者を対象とした中間言語対照分析における参照基準の拡張―「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」(I-JAS)と「小中高大生による日本語絵描写ストーリーライティングコーパス」(JASWRIC)の連動分析の試み―
概要
本研究は,2 種の日本語母語話者(JNS)によるL1 産出データを比較することで,学習者コーパス研究(learner corpus research:LCR)における母語話者(NS)参照基準の問題を再考しようとするものである.LCR においては,中間言語対照分析(contrastive interlanguage analysis:CIA)(Granger, 1996)の手法が広く実践されている.これは,学習者間比較と,NS・学習者間比較(L1/L2 比較)の2 種で構成される.CIA は多くの成果を挙げてきたが,CIA が少量のNS データに依存していることは,NS 産出の質のばらつき・NS 多様性への配慮の欠如・誤った NS アイデンティティの強要・NS 主義への加担等の点から厳しく批判されており(Leech, 1998; Larsen-Freeman, 2014; Holliday, 2006),改訂版 CIA ではNS データにおける言語使用域や地域変種の多様性への配慮が示された(Granger,2015)。また,「全てを支配する単一基準」に代わる多様な参照データの必要性も模索されている(Gilquin, 2022).
本研究では,JNS 成人と,JNS 小中高大生による同一タスクに基づくL1 作文を比較し,その言語的差異を明らかにするとともに,2 種の JNS データを CIA の参照基準に選択した場合に,学習者の特徴語抽出にどのような影響が生じるかを概観する.
※参加者は約65名程度。当日の発表では、理念的背景というか、学習者コーパス研究におけるモデルをめぐる最近の議論について整理をしたうえで、JASWRICというコーパスの可能性を議論しました。質疑ではNSの大人の多様性にも配慮すればよいのでは、とくに高齢者の産出にも史料価値がある、というコメントをいただきました。多世代データという論点になっていくものと思いますが、高齢者の産出などはなかなか集めるのが大変そうで、このあたりも方法論的に可能かどうか検討してみたいと思います。さっそく、その日のうちに市内の老人ホームにコンタクトを取ってみました(まあ、なかなか良い返事は期待できないでしょうが…)。口頭発表の良さは、質疑やそれをふまえた内省から、次の研究のヒントが得られることだと再確認できた学会参加でした。