ベルギーに本拠を置く国際学習者コーパス学会(Learner Corpus Association)が提携して初開催された表記大会 (The Graduate Student Conference in Learner Corpus Research 2021)に出席し,1セッションの司会を担当しました。欧州の若い院生さんの発表に刺激を受けました。
また,初日のSylviane Granger氏の講演も,LCRの歴史を振り返り,今後を展望するうえで有意義でした。
Granger先生講演視聴メモ(石川)
※ハンドアウトなしの講演だったので走り書きです。聞き違いあるかもしれません。
●LCRの起こり
・Granger氏,1990s後半にCLから着想
・当時のCLには,diatypic(genre)/ temporal/ geographical varietiesは考慮されていたが,学習者は入っていなかった。この状況は"unfair"(NNSのほうが多い)
・AILAでLeechに会い,LeechからICAME(1990)に誘われる
・その後,GreenbaumのICEプロジェクトとかかわる。ICLEはICEのサブデータとして始まった。
・ICLE(Granger 1993)に加え,HKUST (Milton & Tsang 1993),Longman Corpusなどが構築される。
●初期LCRの特徴
・目的は2つ(SLAの理論研究+教育実践)
・L1影響研究(大半はmono-L1 corpusだった),対照研究,誤用研究に焦点
・学生作文の特性を示す量的モデルの不足 (Milton & Tsang)
・CIA (Granger 1993),Computer-aided Error Analysis (CEA)(Granger)
●LCRの現在
・学問分野としてのLCRの確立。雑誌+ハンドブック(CUP)+学会組織+大会(2001~)
・英語以外の学習者コーパスも(言語を超えた一般化可能性を議論可)
・方法論の精緻化:CIA/CEAは,SLAからの批判を受けてさらに発展。批判は耳に痛いがそれが内省の契機となる。
・主な批判の論点,comparative fallacy(Bley-Vroman 1983)比較すると中間言語をそれ自身として見られない/古いCAの回顧版(reminiscent)
・CIA→Granger (2015) CIA2 :ENS/NNSとも,多様性を配慮(学習者はProficiency Levelやexposure量など)
・CEA→多層システムInterlanguage Annotation(教育学と言語理論の両面を意識したエラータグ Lozano & DiazNegrill 2013)Full error tagging vs Problem-oriented error ragging 習熟度ごとの学習者が出会うエラーを示す
・統計の精緻化:初期はカイ二乗(χ2)。LCRのcrudeな統計の使い方に批判。Durrant & Schmitt (2009)NS/NNSをかたまりで比較して個人差を無視。効果量を示さないなど。その後,"statistical turn" in CL in general and LCR in particular
・関心対象の広がり:Granger 1998で扱った文法(補語,POS)・語彙(高頻度動詞)・談話とレトリックなどは今も研究される。加えて,phraseologyがflagship locus of research(理論と実践のbridge。SLAのusage-basedの考えかたとも関連。インプット頻度とsaliency)。複雑性・洗練性の新しい指標。
・結果の解釈:strong on description but weak on interpretationという批判。しかし記述は重要。thorough in-depth description of key linguistic phenomena はLCRの強み。影響原因は多種多様のはずなのにL1に集中しすぎてきた。
・教育応用:LCR準拠教材はなお少ない。many pedagogical implications but few up-and running pedagogical applications。単一母語学習者コーパスに基づく特定母語話者用教材だとマーケットが小さい。出版社はgeneric one-size-fits-all なものがほしい。Granger & Paquot 2015(各種母語話者用の汎用無料教材)テスティングへの活用も期待大きい(学習者コーパスから錯乱肢を抽出するなど)
●LCRの未来
・当初の2つの目的に戻る(SLA理論+実践) CAFの新しい習熟度指標作りなど。
・cross-sectional pseudo longitudinal分析
・適性・動機付け・教材などの影響も考えるべきだが(Moller 2017), L1影響のさらなる追求も。
・Integrated contrastive analysis model (Grange 1996): 2言語コーパス+学習者コーパス。 Jarvis (2000)4種の証拠。多種のL1背景を持つ学習者コーパス分析を通して,より厳格にL1影響を調査。
・統計と言語学の良いバランスを。Larsson Egbert Biber (forthcoming) 2009-19のCL論文を調査。統計研究が増えてテキスト分析が減る。用例こそが命。
・LCR/SLAの統合には努力してきたが,LCR/FLTの融合にはさらなる努力を。
・エラー研究を再興する: ELFではerrorもfeature/ innovationとみなされ,errorはstigmatizedされるが,"Errors matter" L1別のおかしやすいエラー一覧表は有意義。Swan & Smith 1987の仕事をLCRで拡充するなど。
・ELFとの関係: ELFもproficiencyを重視。どの点でerrorがfeatureになるのか? normなしでどうやって議論するか?中国のELFとヨーロッパのELFは違う。intelligible かどうかを決めるのはほぼ不可能。前置詞はattended at X だと問題ないが,look at / forは大事。どこで線を引くのか? error annotationでは教師が大事だと思うところに注目すべき。知ることは重要。