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2018/08/29

2018.8.27-29 大学英語教育学会JACET国際大会参加

表記に参加しました。

The 57th JACET International Convention (Sendai, 2018)
Dates: August 28th (Tue.) – 30th (Thurs.), 2018
Venue: Tohoku Gakuin University, Tsuchitoi Campus
Theme: Assuring Quality Learning Outcomes in Primary to Tertiary English Education for Globalization


2日目基調講演時の風景

聴講した主な研究
〇The Implicit Knowledge Gains Resulting from the Deliberate Learning of Multiword Units Obermeier, Andrew (Kyoto U. of Education)
→ 意図的語彙学習は深いレベルの習得(自動的処理)に転移するか? on the roadのような連語をPC画面上に読み取れないぐらい短い時間だけ表示し,その後に,同じ連語を再度表示して(プライム+ターゲット)同じ連語かどうか回答させる。トレーニング前は,正答できないがトレーニング後は正答できる。つまり,意図的学習も,習得(自動化処理)に転移したと考えられる。

〇The Effects of Different Feedback on Error Correction with Corpus Use
Satake, Yoshiho (Surugadai U.)
→ 学生に作文をさせ,フィードバックを返して修正させる。辞書を見て直す群とコーパス(COCA)を見て直す群では,後者のほうが修正度があがる。冠詞抜けなどについては,コーパスを見ることで,学習者が気付きを得やすい。

〇Implementing a Policy of Absolute Grading for CSAT English in Korea
Lee, Young Shik (Hannam U., President of KATE)
→ 韓国の大学入試CSATの英語はこれまで相対評価(によるグレード評価 ※1点刻みではない)だったが,英語熱が過熱しすぎ,塾経費が高騰して教育格差が社会問題になったため,新たに絶対評価(によるグレード評価)に移行。結果的に,最上位グレード(Grade 1)をもらう生徒の比率が全体の3%から10%に激増し,有力大学では,英語スコアが選別にまったく役立たない結果に。しかも,他の教科(韓国語,数学)にも絶対評価を入れる予定だったが,予定は延期(撤回?)され,英語だけが絶対評価,他教科が相対評価というねじれ状況に陥る。
 良いグレードが取りやすくなったということで中堅学力層が英語をさらに頑張るという効果はありえるが,トップ層は逆に英語の学習をやめ,他教科学習に時間を割く。韓国版TOEICであるTEPSの新入生平均(一流大学の例)は,2014年から2016年のわずか3年間に,698から643に50ポイントも低下。しかも,減少が期待された塾代は毎月2.7万円で減るどころか増えている。
 韓国では教育政策の決定に,public opinion committee(専門家でない一般市民による諮問委員会)が大きな権限を持つ。今回も490人の「市民委員」が中心になって国民アンケートを行ったが,CSATにおける絶対評価拡大・絶対評価縮小ともに国民の賛否はほぼ同率で,市民諮問委員会は合意形成に失敗し,玉虫色の答申を出す。これに基づき,2022年度入試体制が確定。
1)CSAT入学者(※特別推薦ではない一般入試入学)の比率(現在23%)を45%に引き上げるという従前目標は撤回。30%を新たな目標値とする。
2)韓国語・数学・他教科(社会・理科)の相対評価はそのまま残す(※絶対評価に切り替えない)
3)絶対評価の対象は必修科目では英語と歴史のみとする。また,選択科目では,第2外国語(日・中・仏・独…)と漢文のみ絶対評価とする。
 韓国では,教育政策は時として,科学ではなく,政権の意向や時代の雰囲気で決まってしまう。英語教育学者はみな新制度に反対している。

〇A New Multiword Unit Analysis Tool: ColloGram
Shin, Dongkwang (Gwangju National U. of Education, KATE)
→ Nation のRangeプログラムを連語(MWU)に拡張するCollogramを開発。テキストの中に含まれる主要連語の頻度や割合が測定可能に。
→ 早速試用してみました。Aliceのテキスト分析結果。

LIST TOKENS/%  TYPES/% FAMILIES/%
one 360/74.53 199/70.82 156/68.72
two 87/18.01 58/20.64 49/21.59
three 36/ 7.45 24/ 8.54 22/ 9.69
Total  483 281 227

延べ語数で見ると,Level one連語がトークン換算で74%,タイプ換算で70%,連語家族(関係するものを幅広く集約)で68%であることがわかります。

レベル1連語トップ5
as well (13)
very much  (10)
come on (7)
good deal (7)
got up (7)

レベル2連語トップ5
little thing (8)
jumped up (4)
ran off (3)
young lady (3)
back again (2)

レベル3連語トップ5
guinea pigs (4)
poor man (3)
seemed quite (2)

Rangeを連語に拡張するというのは面白いアイデアですが,当日も発表者に質問させていただいたように,a number of/ the number of,a kind of/ a sort of・・・のように,形は似ていて意味が同じ/違うという様々な表現形に対して,何をどこまで「連語レマ化」するかは悩ましい判断となりそうです。

Current and Future Assessment of Four Skills in an Entrance Examination
Obata, Yasuhiro (MEXT); Fujimura, Masayuki (Sophia U.); Yasukochi, Tetsuya (Practical English Promotion Systems Foundation)
〇上智の先生のお話では,TEAPの導入は,上智の入試英語が難化しすぎてしまったことによる入学者の偏りの是正(ie. 英語はやや劣るがその他は優秀な学生も入れるようにする)が背景にあるということでした。そのため,TEAP利用入試では,英語は最低要件のクリアチェックとしてのみ使用し,そのぶん,国語や社会はしっかりした論述型の試験形式を採用しているということです。
 この話,前述の韓国の英語入試改革をめぐる講演内容とも呼応します。つまり,日本の英語外部入試導入や韓国の英語の絶対評価導入は,一見,英語力にさらなる強調を置く政策に見えますが,実際には,従来の過度の英語偏重の是正,さらに言えば,入試における英語力のウェイトの切り下げ策にもなりうる,ということです(だからこそ,韓国の英語の先生がたは改革に反対してデモ(?)を行ったとおっしゃっておられました)。「外部入試導入=英語のさらなる強化・重点化」というわけではないかもしれない,という視点は重要だと感じました。
 また,上智受験者のTEAPスコアの分析により,1)R+Lと,S+Wの相関は低い(r^2=.296),2)TEAPスコアと合否の相関はない(※つまり英語以外の記述型試験の成績で合否が決まっている→入試における英語の実質的な「無効化」に成功),3)SとWの相関はほぼない(r^2=.077)等の結果が報告されました。1)は筆者の過去の研究とは異なる結果で,より詳細に吟味してみる必要があります。

★今年は,LET,JASELE,JACETの三大学会のすべてに参加しました。それぞれ特徴がありますが,印象として言えば,同じ英語(外国語)教育を扱っていながら,どの学会にも「そこでしか聞けない話がある」ということです。JACETについて言えば,韓国の入試制度改革の最新情報や,上智のTEAPデータ分析などは,おそらくは「そこでしか聞けない話」だったと言えるでしょう。学会が乱立する中で,個々の学会は,それぞれにしっかり「ミッション再定義」を行い,得意なところをしっかり伸ばし,そこの部分で会員を獲得していくことがより重要になってくるでしょう。