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2023/02/19

2023.2.19 学習者コーパス研究会参加

表記の例会(online)に参加しました。

発表者:張静之(閩江学院)

演題: 「対話における日本語学習者の「かな」の発達 -I-JAS とC-JAS のにおける中国人母語話者と韓国人母語話者を対象に-」


聴講メモ
大変興味深い発表でした。「かな」をNSが多用しているが、NNSの使用度は低い、という指摘は納得感があります。

あわせて、個人的には「かな」の機能区分に興味を持ちました。手元の辞書ですと、終助詞「かな」の機能は下記のように説明されます。雅語の詠嘆用法と終助詞用法をあわせて記載しています。


1)疑問を込めた詠嘆を表す。「何かいいことない―」
2)詠嘆を表す。「悲しい―、すべてが灰燼かいじんに帰してしまった」
[岩波国語辞典 第八版]

1) 詠嘆の意を表す。…だなあ。…ものだなあ。
2) 不確かな点を確かめる意で自問し、あるいは、相手に問い掛ける語。「煮えた―」
3) (「ない―」の形で)願望の意を表す。「何かいいことない―」
[広辞苑 第七版]

1)自問を表す「うまく行く━」
2) 自問の気分で、問いかけを表す。「君にできる━」
※目下の相手や親しい相手に使う。やりもらいの表現とともに使うと、婉曲な依頼を表すことがある(「明日来てくれるかな・窓を開けてもらえるかな」)。打ち消しの表現にすると、さらに丁寧な依頼になる(「ちょっと手伝ってもらえないかな」)。「かなあ」とも言うが、その場合は自問の意が強まり、不審や疑念をまじえた詠嘆の表現となる(「君にできるかなあ・こんなことをしていていいのかなあ」)。
3) 感動・詠嘆を表す。「幸いなるかな」
[明鏡国語辞典 第二版]

1) 〔雅〕主体の感動の気持を表わす。「すばらしき哉我が青春
2) 一情報として提供されていることがらに対し、(何らかの根拠にもとづいて)疑いをいだく気持を表わす。「天気予報通り雨が降る哉」
3) 〔多く「…ない哉」の形で〕期待する事柄の実現を願うことを表わす。「何かいいことない哉」
4) 軽いためらいの気持を込めながら自分の意向や願望を実現しようとすることを表わす。「疲れたから明日は休もう哉」
[新明解国語辞典第八版]


このうち、自問的な用法は、実際のコミュニケーションでは、しばいばヘッジ的な役割を果たしているように思われます。こうした用法を独立した語義として立項してもよい「かな」と感じました。

私案1 【ある程度公式の場面で、相手のメンツを立て、謙遜の気持ちを示しながら、異なる見解や意見を陳述する際に用いる】例:「素晴らしい研究発表でしたが、~という点に触れられてもよかったかな、と感じました」

私案2【親しい間柄でのやりとりの中で意見を表明する際に、自分の意見が押し付けがましくならないよう、あえていえば、どちらかといえば、といったニュアンスを出して用いる】 例:「ラーメンと寿司、どっち行く」ー「ラーメン、かな」


あと、「かな」について「目下に使う/親しい間柄で使う」という記述も辞書にあるのですが、以下のような例を考えてみると、なかなか「かな」の有無で関係性の親疎についてはっきりしたことは言い難いことがわかります。

(a)「AとB、どっちがいいですか?」
a1 目上から目下に: Aかな?
a2   目下から目上に(独り言的に答えている、という場合なら許容されそう) A...かな?
a3   親しい間柄で丁寧さを出して: A...かな?
a4   親しい間柄でフランクに: Aかな?

どうも、かな、の前のポーズ(=躊躇や逡巡のマーカー)の有無で、丁寧さが変わってきそうな気がします。昨日の研究会では、とっさに、「negative politeness marker」としてのかな、と、「positive politeness marker」としてのかな、がありそう、と発言したのですが、よく考えると、もう少し状況は複雑そうです。