英和辞典のトップランナー「ジーニアス英和」の6版が昨年末に出ました(出版社サイト)。早速、電子版で入手し、あれこれと眺めています。
新語が入ったとか、COCAを使って頻度を再調査したとか、新たにCEFR-Jのランク情報がついたとか、「つなぎ語」というラベルが新設されたとか、出版社サイトで紹介されるような目立つ変更も多々あるのですが、より興味深いのは、地味な部分で、用語や用例が丁寧に検証され、必要に応じて差し替えられていることです。
下記は "word"の項目の冒頭の記載(変更のあった場所のみ記載)です。
5版
語, 単語, (伝達の手段としての)言葉《関連形容詞 verbal》
I don’t know a word of Latin. ラテン語のラの字も知らない
6版
語, 単語, (伝達の手段としての)言葉《外来形容詞verbal》
What does this word mean? この単語はどういう意味ですか
5版の関連形容詞という用語が6版では外来形容詞に変更されています。関連(外来)形容詞というのは、ふつう、「ラテン語・ギリシア語からの外来語による形容詞形」を指します。word/verbalのほか、fall/autumnalとかcity/urbanなどもこの例です。
ただ、この現象(というか語彙間の関係性)を指す専門用語は知る限りでは必ずしも確立しておらず、ジーニアスも、かつて3版の時点では外来形容詞という用語を使っていたようです(参考:電子辞書所収の3版の概要説明より)。その後、ジーニアスの5版(そのほかリーダーズの3版も)では「関連形容詞」という用語となっていたのが、今回、再度、外来形容詞に戻ったようです。
一般読者としては、関連形容詞と言われると、いささか趣旨が曖昧ですので(たとえば、longについて言うと、反義語のshortなども「関連」形容詞と言えそうです)、外来形容詞という用語のほうが直観的に理解しやすいように思われます。これなども、ユーザー目線での修正と言えるでしょう。
また、用例の差し替えも行われています。辞書執筆者はともすれば、ちょっと気の利いた珍しい表現を用例に出したくなるものですが、ユーザーのニーズを考えると、当たり前だけれどなかなか出てこない自然な表現を用例に出す方がメリットが大きいのは自明です。
全体に関して、目立つ部分だけでなく、目立たない部分についても、丁寧な検証作業が入っていることをうかがわせる6版でした。関係者の皆様のご苦労に敬意を表しつつ。